「Face To Face」NO.106「どの子どもも正しい性教育が受けられる道筋をつけたい」

51回生 大石真那
塩屋中学卒
音楽部
神戸大学医学部保健学科卒
4人の子育てをしながら県の保健師として勤務していた大石さん。2021年の春、幼児や子ども、またその親世代向けへの性教育を広める活動に専念するために公務員を退職した。
「自分や相手にとって何が大切かをきちんと判断できる力を子ども自身がつけるために、親として何ができるだろうか?」これが大石さんの「保護者向け性教育」のスタート地点。そこに至る道筋をお聞きしてきました。
―就職―
看護師になりたくて医学部保健科に進学した大石さんが、「地域看護学」のゼミを選び、障害がある方でも暮らしやすい街づくりに取り組みたいと考えるようになったのは、大学時代に、視覚障害がある方々のためのボランティアに参加したことがきっかけだった。
卒業後、県の保健師として勤務をスタートさせた大石さんは、結核やO157などの感染症対策、精神保健(精神に疾患がある人が自傷・他害など行為に及んだ際の、医師の診断を受けるまでの調査等)、難病の方のサポートなど多岐にわたり地域に関わる仕事をしてきた。その中でエイズ予防教室や妊娠SOS(健診未受診妊婦さんのたらい回し、望まない妊娠から起こる虐待など)などにも関わりながら、性教育の難しさに直面し何かモヤモヤしたものを感じていた。
―きっかけー
そんな大石さんが真剣に性教育のことを考え始めたのは、妊娠した第4子が女の子と分かった時だった。
「それまでは男の子三人で、お風呂上りなども平気で裸で走り回って何も気にしていませんでしたが、女の子と分かったとたん、この子をどうやったら望まない妊娠や性被害から守れるだろうと真剣に考えるようになりました」
「同時期に、8歳の長男から『赤ちゃんはどうやってお腹に来たの?』と尋ねられたことも性教育活動を考えるきっかけにもなりました」
性教育のことを本やネットで学び、ユネスコのガイダンスも取り寄せて自分なりに読み込んだ。そして、今の日本の性教育が世界標準と比べて遅れていること、「家庭でも性教育をしましょう」という流れが、日本にも来ていると感じるようになる。大石さんと同じように、育児休暇中で子育てをしている保護者を対象に、ボランティアで家庭でできる性教育について伝える講座を始めた。

育休中にボランティアで始めたお母さん向けの講座の様子
2019年11月に絵本大賞の新人作家ストーリー部門に「保護者向けの性教育の本を作ってみたい」と応募してみたところ、奨励賞を受賞した。奨励賞では、編集者がついて出版の権利を与えられる。
―長田の仲間の応援を受けてー
年があけて2020年。中国武漢で始まったコロナ禍はあっという間に日本を緊急事態宣言に追い込んでいったが、ちょうどその頃に長田51回生のfacebookグループができた。その中で、大石さんの誘いで「夢ノートの会」が4人で発足した。
「ひすいこたろうさんの『世界一ふざけた夢の叶え方』を読んだばかりだった私は、彼の著作にあった『違う分野で活躍している友人同志が月に一回集まって、夢を実現する』を実践したいと呼びかけたのです。賛同して集まってくれたのがピアノの先生をしている松尾さん、高校教師で産休中だった原田さん、当時JA職員でとにかくはちゃめちゃに活動家の亀原くんでした」2020年4月のことだ。
「毎月それぞれの目標や振り返りを動画でシェアしながら、月1回第一土曜日の朝6時からおよそ一時間半、zoomで会いました。それぞれに仕事や子育てで忙しく、この早朝の時間が皆の都合が良かったのです」
まず第一回目の会までに「一年後にこうなる!」と自分で決めた目標を宣言し、そのための一カ月後の目標を発表する。そして進捗状況を報告しあい、互いに「すごい!がんばってる!あなたなら出来る!」と励まし合う。大石さんの一年後の達成目標は「一年後には公務員を辞めて、性教育講師として正しい知識を広める」だった。
4人の子育てをしながら、安定していてやりがいもある公務員の立場を捨てて、新しい人生の「夢」を叶えると宣言した大石さん。
7月には出版社との契約も完了。「げっけいのはなし いのちのはなし」プロジェクトもスタートした。
「絵本の文章部分は私が考えましたが、絵は描けません。当初お願いしていたイラストレーターさんが『私は生理が重くてどうしてもポジティブになれない』と途中で降板。困ったと思っていた時に、新しい出会いがありました」
以前に「Face to Face」でご紹介した51回生の山本晋也さん 「Face To Face」NO.93「遊びこそ最高の学び」 が立ち上げた「天才バンク」に参加していた大石さんは、そこで絵の得意な人を紹介してほしいと呼びかけたところ、今回の優しく温かい絵で大石さんの世界観を表現してくれたふかいあずささんとも知り合うことができたのだ。
「夢ノート」発足からほぼ一年。2021年4月末に、当初の宣言通り公務員を退職。5月に絵本が出版された。なるべくたくさんの保育所、幼稚園、小学校等にこの絵本を置いてもらいたいとクラウドファンディングを立ち上げたところ、応援の輪はあっという間に広がり、わずか9日間で当初の目標額100万円を達成。250名の応援者、という第二のゴールも達成し、266名から約174万円の寄付を集めて公募を終えた。

夢ノートの仲間たちとリアルでやっと会えたのは一年後
山本晋也さん主催の「天才バンク」の田植えイベントにて
―めざす最終ゴールに向けてー
現在、大石さんの住む明石市は子育て支援が充実していることで全国的にも名をはせているが、そこで小学校4年生を対象に、さっそく講演もおこなった。
神戸女学院では高校1~2年生280人を前に講演。夏休み前には中学生向けの講演の依頼も続く。
茨城県つくば市では、市長さんがこの「げっけいのはなし いのちのはなし」を読み、この絵本の必要性を理解。すぐに市内の図書館や子育て支援センターに設置してくださったのは6月だ。
性教育は「生きる」ということととても包括的につながっている。遅れているとされている日本の性教育だが、小さい頃からの性教育の必要性を誰もが理解し、全国どこにいても子どもたちが一律に国際的に推進されている包括的性教育を受けられるような仕組みができること。それが、大石さんの最終的な目標だ。
「私は長田生の時、自分のことを『平凡』と感じていました。その後も、活躍する同期生たちをみながら自分のことを『平凡』と感じてきました。でも、そんな私でも、心からやりたいことを見つけその夢をかなえる道を歩き始めました。みなさんにも必ず見つかる時がやってきます!」大石さんから現役長田生へのアドバイスだ。
(2021年9月 取材・文章 田中直美 写真 ご本人提供)
編集後記
私は、今までに取材させていただいた長田生のフェイスブックページをなるべく見るようにしているのですが、そんな中、ふとしたコメントで目に留まったのが大石さんでした。幼児を持つ親向けの性教育をスタートさせたばかりの頃で、さっそくコンタクトをとったところ「今日、母校長田高校を訪ねて、一年・三年時代の担任だった中村晶平校長をお訪ねして懐かしい時間を過ごしてきたところなんです!」とのお返事。
子育て中の私の娘とその友人に向けにお願いしたオンラインの性教育講座に、私も参加させていただきました。大石さんの絵本「げっけいのはなし いのちのはなし」についてはぜひこちらを読んでください。丁寧な取材で大石さんの想いが大変よく伝わります!https://wezz-y.com/archives/91606
私が大石さんに聞きたかったことが、ほとんど全てこちらの記事でカバーされていたので、私は大石さんが、長田生の不思議な繋がりの中で、このコロナの2020年に夢実現の第一歩を踏み出したお話を中心に伺いました。記事のリリースは9月になりますが、取材は6月にさせていただきました。この2カ月の間にも目覚ましく広がりをみせている大石さんの性教育講座。お母さんや先生や講座を受けた子どもたちからの口コミで、急速に広がると確信しています。だれもが必要と感じるような素敵な内容だからです。
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